少し照れくさくて、でもまっすぐな気持ちでそう返すと、來がテーブルの下でそっと私の手を握った。
強くもなく、弱くもなく、ちょうどよい温度のぬくもりだった。
知らない町で、誰にも「先生」と呼ばれない場所で、こうして手をつないで歩くことが、どうしようもなく嬉しかった。
役割から解き放たれて、ただの“わたし”として、來の隣にいる。
それだけで、世界は十分に満ち足りていた。
カフェを出て、夕暮れが近づく道を並んで歩く。
來がときどきスマホで地図を確認しながら、「もう少し先に展望台があるらしい」と言った。
その声に導かれるように、私はまた、彼の手を握り返した。
ただそれだけのことが、今はとても大切で、胸がいっぱいになった。
――ずっとこの手を離さずにいられたら、いいのに。



