夫の一番にはなれない



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駅前の観光案内板の前で、來と私はしばらく地図を眺めていた。


「こっちの小道を抜けると神社があるみたいだな」


そう言って地図を折りたたむと、來は自然に私の隣に立って歩き出した。

坂を登る道の途中には、小さな商店や土産屋が軒を連ねていて、風がどこか懐かしい匂いを運んできた。


ふと來が、私の手を取る。

驚くほどあたたかくて、しっかりとした掌だった。


「先生って呼ばれないの、変な感じしない?」


私が笑って言うと、來は少しだけ口元をゆるめた。


「むしろ、ようやく“俺たち”になれた気がする」


神社にたどり着くと、來は黙って小銭を取り出し、お賽銭箱に入れて深く頭を下げた。

私も隣に並んで手を合わせる。


願い事は、ひとつだけ。

この人と、静かに、穏やかに、歩いていけますように――。


参拝を終えたあと、おみくじを引いてふたりで見せ合った。


「俺、大吉。よし、帰ったら自慢しよ」

「私は……中吉。まあまあ、かな?」


來がくすっと笑って、私の肩を軽く叩く。