夫の一番にはなれない



「そんなに急いで詰めなくても、明日出発じゃないよ?」

「準備は早いに越したことない」

「珍しいね、來がそんなにやる気なの」

「そりゃあ、俺にとっては初めての“夫婦旅行”だからな」


その言葉に、わたしの手がぴたりと止まった。


たしかに、そうだ。わたしたちは“本当の夫婦”になってから、まだ日が浅い。

でも、今の來の声は優しくて、穏やかで、少しだけ照れていて。


「……あれ? 俺、なんか変なこと言った?」


來が不安そうにわたしの顔を覗き込む。


「ううん。うれしかっただけ」


そう答えた自分の声が少し震えていたことに、あとで気づいた。


「荷物、こんなもんで足りるかな?」

「足りると思うよ。下着とパジャマと……あ、化粧品入れなきゃ」

「あー、そういうのって、女子は大変そうだよな」

「來はいつも歯ブラシとタオルくらいしか入れてないもんね」

「俺は最低限で生きてるからな。お前がいれば、それでいいし」

「あ、今のちょっと甘すぎる。やり直し」

「甘すぎた? じゃあ……“お前がいてくれたら、旅先でも安心できる”ってのはどうだ?」

「え、なにそれ……うまくないけど、悪くない……」