夫の一番にはなれない



***

「このパンフレットのここ、温泉もあるって書いてある」


夕食後、リビングのテーブルに並べた旅行雑誌とスマホの画面を交互に見ながら、わたしたちは旅行の行き先を決めようとしていた。


「温泉もいいけど、ほら、ここ。露天風呂から海が見えるって。すごくない?」


來が覗き込むように差し出してきたスマホの画面には、青い海を背にした小さな温泉宿の写真。


「……え、ここ、ちょっとオシャレすぎない? 高そう」

「一泊だけだし。たまには贅沢、してみたくね?」


來の目は真剣そのもの。

普段なら冗談交じりに笑って流すくせに、こういうときだけ本気になるからずるい。


「電車で行けるし、駅からも送迎あるって。あとは、俺が手配しとくから」

「じゃあ……お願いしようかな」


わたしの返事に、來は小さくガッツポーズをして見せた。

ソファの脇に出していた小さなスーツケースをふたりで広げると、來がいそいそとTシャツや歯ブラシを入れ始める。