夫の一番にはなれない



保健室登校を始めてからの彼女は、本当に少しずつではあるけれど、着実に変わってきていた。


早苗さん、長野くん、常盤くん。

保健室で何気ない会話を交わすその姿は、かつての“誰も信用できなかった”という彼女とはまるで違っていた。


だからこそ、彼女の言葉がわたしの胸にじんと響いた。


わたしはそっと椅子を引いて、酒井さんの隣のベッドに腰を下ろす。

無理に言葉をかけるのは違う気がして、少しだけ間を置いてから、静かに口を開いた。


「……その気持ち、大事にしてほしいな」

「気持ち?」

「うん。一緒に卒業したいって、思える誰かがいるって、すごく素敵なことだよ」


酒井さんは、少しだけわたしのほうに顔を向けた。

目は合わないけれど、その視線が少しずつ近づいている気がした。


「卒業って、ただ一緒のタイミングで校門を出ることじゃないと思うの」

「それよりも、自分がその人たちと一緒にいたいって思えるかどうか。どんな形であれ、気持ちがつながってるなら、それはもう“一緒に進んでる”ってことなんじゃないかな」