「よっ、酒井」
不意に名前を呼ばれて、酒井さんがびくりと肩を震わせた。
長野くんは、わたしに軽く会釈しながら、ベッドの隣の椅子に腰を下ろす。
「昨日、聞こえちゃったんだよ。あいつの、あれ」
酒井さんが顔を上げて、戸惑った表情を浮かべた。
「……あれって?」
「“楽でいいね”とかってやつ。ムカついたわ。誰が何もしてないって決めたんだって感じ」
「オレ、ちょっと言ってやったんだよね。“あんたより酒井のががんばってるぞ”って」
常盤くんが笑いながら補足する。
「言いすぎたかなーと思ったけど、まあいいかって」
長野くんと常盤くんは、真剣に怒っているというよりは、あくまで“自分たちのルールで友達を守った”ような、そんな自然なスタンスだった。
酒井さんが、小さく目を見開く。
「なんで……?」
「ん?別に?……友達だろ?」
その言葉に、酒井さんは明らかに動揺していた。
驚きと、困惑と、少しの嬉しさが入り混じったような表情。
そして。
「……ありがとう」
その言葉は、かすれていたけれど、確かに聞こえた。



