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わたしには、五年付き合った恋人がいた。
大学を卒業してから、ずっと一緒にいて、そろそろ結婚の話が出てもいい頃だった。
だから、突然の呼び出しに、少し浮き足立っていたのは事実だ。
「プロポーズされるかも」なんて、少しだけ、ほんの少しだけ期待していた。
でも待ち合わせの場所が、近所のファミレスだった時点で、その期待はすうっと消えていった。
もっとロマンチックな場所を想像していた。
高層ビルのレストランとか、観覧車とか。
でも現実は、隣の席との間仕切りがガタつく安っぽいチェーン店。
そして、真剣な顔でわたしを見つめた彼――溝口望。
「ななちゃん、大事な話があるんだ」
その口調だけで、すべてが分かった。
これはプロポーズじゃない。
まったく違う種類の“重大な話”。
そのとき、彼の背中越しから女の声が聞こえた。
「來くん、大事な話があるの」
背筋がぞくりとした。
あまりにも似通った言葉、タイミング。



