***

翌日の昼休み。

保健室の窓を開けたまま、静かに春の風を受けながら、わたしは記録ノートをめくっていた。


酒井さんは、いつも通り窓際のベッドに腰をかけて、本を読んでいる。


でも、その姿はどこか緊張していて、昨日までの穏やかさとは少し違って見えた。

やっぱり、昨日のあの言葉が響いているのだろう。


「ずっとここにいるとか、楽でいいね」


たったそれだけの一言で、人の心はこんなにも揺れてしまう。

わたしだって、かつて誰かに言われた何気ない言葉が、何年も心に刺さって抜けなかったことがある。


声をかけたくても、酒井さんの集中を乱したくなくて、何も言えずにいると。


「失礼しまーす」


と、勢いよく扉が開いた。


「おお、誰かいるじゃん。よかったー」


いつものように軽いノリで現れたのは、長野くんと常盤くんだった。

彼らはよく保健室に来るけど、それは「具合が悪い」とかではなく、むしろ“ちょっとした避難所”のような感覚で来ているらしい。


彼らがやってくると、保健室の空気が少し柔らかくなる。