「保健室って、居場所になっちゃいけないのかな……」
心の中でふと、そんな疑問が浮かぶ。
学校に行くことができない子が、自分のペースで呼吸を整える場所。
保健室はそのひとつのはずだった。
なのに、あの生徒の言葉一つで、それがぐらついてしまうなんて。
教師としての自分の力のなさに、悔しさがにじむ。
「本当は、もっとちゃんと、彼女に声をかけられたらよかったのに」
ノートの端に小さくそう書いて、また書き直す。
仕事として向き合う以上に、人として寄り添いたい。
けれど、それがうまくできない自分が、もどかしかった。
帰り支度をしていたとき、酒井さんがそっと立ち上がった。
「……お先に失礼します」
小さな声だったけれど、ちゃんと奈那子に向けて言ってくれた。
「うん、気をつけて帰ってね」
奈那子は、できる限りやわらかく答えた。
扉が閉まる音と共に、今日の保健室の時間が終わる。



