わたしの手が、テーブルの下で震えていた。
來が、そっとその手を取った。
「奈那子」
「……うん」
「ありがとう。俺のそばにいてくれて」
その一言で、涙が止まらなくなった。
言葉よりも、その温度がなによりもうれしかった。
わたしたちは、もう“演じる夫婦”じゃない。
本当に、ここから始まっていく。
ゆっくりと、來がわたしの肩を引き寄せ、額をわたしの額に重ねた。
言葉のないぬくもりに、すべてが込められているような気がした。
「これからは、ちゃんと“好き”って言うようにするよ」
「うん……わたしも」
ふたりの声が重なると、部屋の空気が少しだけあたたかくなった気がした。
長く遠回りをしてきたけれど、それでもこの瞬間がすべてを報いてくれる。
好き。
その一言の重みを、ようやく分かち合えた夜だった。



