「……お疲れ」


たったそれだけの言葉だった。


でも、その声が、奈那子の胸にじんわりと染みていった。

自分が教師であることに意味があったのだと、誰かの力になれたのだと、心から感じられた瞬間だった。


涙が止まらないまま、來の肩にそっと顔を埋めた。

その温もりが、今の奈那子にとって、なによりも優しかった。



そして、この日を境に、彼女の中で何かが変わり始めていた。

それは酒井さんの変化と呼応するかのように。


それは、心を開くということが、どれほど勇気のいることかを知ったからこそ。

彼女は、來ともきちんと向き合おうと、そっと心に誓ったのだった。