話していると、酒井さんの頬がほんの少しだけ赤らむことがある。
それが気温のせいなのか、言葉のせいなのかは分からない。
けれど、その反応が、俺の中にわずかな希望を灯す。
時計を見ると、そろそろ時間だ。
「そろそろ帰るよ」
そう言って立ち上がると、酒井さんがふと、声を漏らした。
「……でも、今から行っても、進級できないよね」
來はその場で足を止める。
酒井さんの顔を見ると、視線は伏せられていた。
声のトーンは小さい。だが、そこには確かな意志があった。
問いかけではなく、確認でもない。
ただ、心の中にずっと沈んでいた不安を、ようやく外に出せた、そんな響き。
「……そうだな。確かに今のままだと、出席日数が足りなくて、進級は難しい」
静かに、ゆっくりと事実を伝える。
でも、それだけでは終わらせたくなかった。
「けど、俺は、それが終わりだとは思ってない」
酒井さんの肩が、ぴくりと動く。



