わたしたちの朝は、毎日決まったように忙しなく始まる。

とはいえ、來に比べれば、わたしの朝はまだ余裕がある方かもしれない。


朝6時に起きて、7時15分に家を出る。

來はそれより少し早く、7時前には出ていく。


「行ってらっしゃい。またあとで」

「……ああ、またあとで」


たったそれだけの会話を交わし、わたしたちは別々の車で、同じ職場へと向かう。

交通費も節約できるのに、わざわざ別々に。

職場で夫婦らしく振る舞うための演技はしていても、出勤の車内は、ふたりの沈黙に耐えられそうになかった。


こんなふうに毎朝すれ違う生活にも、少しずつ慣れてしまったのが悲しい。

それでも、今日という一日が始まる。


「おはよう、奈那子先生」


保健室のドアを開けた瞬間、声をかけてきたのは早川美千恵先生。

二年の国語を担当していて、年上ではあるけれど、採用はわたしと同時期だった。

数少ない、わたしの“職場の友人”だ。


「早川先生、早いね。どうかした?」

「ちょっと相談したくてね。始業前なら落ち着いて話せるかなって」


保健室は、生徒だけの逃げ場所じゃない。

先生たちの憩いの場でもあり、誰にも言えない悩みをこっそり吐き出せる場所でもある。