少しずつ、でも確実に、來に対して心を開こうとしている自分がいる。

まだ“好き”とは言えない。


けれど、來と一緒にいたいと願う気持ちが、今では嘘じゃないとわかる。


「それとね、酒井さんのことで……來と交互に家庭訪問に行こうと思ってるの」

「交互に?」

「うん。來が担任だから責任は重いと思うけど、わたしももう少し踏み込んで関わりたい」

「……ありがとな、奈那子」


來の声は、静かで、それでも確かに心に響くものだった。

2人で飲むコーヒーは、いつもより少しだけ温かい気がした。


日常の中に、誰かの心に触れる勇気が芽生える。


教師として、そして一人の人間として——

わたしはまた、少しだけ前へと歩き出せた気がする。