目の前にいる人は、わたしの“夫”だ。
でも、胸の奥が、安心しきれない。
こんなに近くにいるのに、なぜか少し遠く感じる。
酒井さんの顔がふと浮かんだ。
あの、扉の向こうで冷たく放たれたひと言。
「先生なんて信用できない」
その言葉は、わたしの心の中で繰り返し響いていた。
誰かを信じることって、こんなに難しいの?
それとも、誰かに“信じてほしい”と伝えることの方が難しい?
カレーをすくう手が止まり、そっと目を伏せる。
「……なあ、この前のこと、引きずってる?」
來の声が優しく落ちる。
「ううん……まあ、ちょっとだけ」
「無理すんなよ」
それだけ言って、來は黙々と食事を続けた。
何気ないひと言。
だけど、わたしの気持ちをそっと支えてくれている。
そう思った瞬間、涙腺が一瞬だけ緩んだ。
バレないように水を口に運ぶ。
それでも、心は少しだけ揺れていた。
「ねえ、來」
「ん?」
「……來は、わたしのこと、どう思ってる?」
唐突だった。
でも、聞かずにはいられなかった。
來はスプーンの動きを止めて、ゆっくりわたしを見た。



