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仕事を終えて家に戻ると、ふわりとカレーの香りが出迎えてくれた。

來のリクエストだった“週末のカレー”。

まだ金曜日だけど、今日のわたしには、こういう優しさが沁みる。


「おかえり。お疲れさん」


エプロン姿の來が、キッチンカウンターからひょこっと顔を出した。


「え?作ってくれたの?」

「お前、今日は疲れてるだろ。顔に書いてある」


そう言って鍋のフタを持ち上げると、ぐつぐつ煮込まれたカレーの湯気が立ちのぼる。

じゃがいもとにんじんがごろりと形を残していて、來らしい不器用なカレーだった。


だけど、それが、嬉しい。


「わたしが作るって言ってたのに」

「別にいいだろ。飯ぐらい作れる」


そっけない言葉なのに、口調の奥ににじむ気遣いに、何も言い返せなかった。


テーブルに2人分の皿が並ぶ。

カレーと、サラダと、切っただけのトマト。


「カレー、ちょっとだけ辛めだけど大丈夫か?」

「うん。ありがとう」


スプーンを手に取ると、熱が伝わってきた。

食べながら、どこかふわふわした気持ちになっていた。