夫の一番にはなれない



職員室の時計が午後六時を回る頃、すでに帰宅した先生たちも多く、室内はぐっと静かになっていた。

それでも、まだ残っていた数名の二年生の先生たちは、席に資料を広げて進路指導の準備や、週明けの授業計画に取りかかっていた。


そんな中、奈那子は自分のデスクで酒井さんの家庭訪問の記録を書いていた。

その手元に視線を落としていた來が、ふと「どうだった?」と声をかける。


奈那子は一瞬だけ手を止めて、小さく息を吐いた。


「うん……会えた。少しだけ。でも……『信用できないから帰って』って言われた」


その言葉に、同じ学年の先生たちが一瞬手を止め、気まずそうに互いの顔を見合わせた。

「……そこまでかぁ」担任の一人、宮下先生が低くつぶやく。


「お母さんはね、すごく申し訳なさそうにしてた。でも、酒井さんの目……すごく冷たくて、どんな言葉も届かないって、そう思っちゃった」

「先生にそんな目を向けるなんて、なにかあったのかな。単なる思春期の反発だけじゃないと思うけど……」と、別の女性教員が言う。


そのとき、奈那子の脳裏にふと浮かんだ。