「君も、似たような気持ちじゃないですか? 誰かと一緒にいたいけど、もう恋愛には疲れた。傷つきたくないし、誰かを信じるのも、また裏切られるのも怖い。でも、一人でいるのも、やっぱり、寂しい」


その言葉は、わたしの胸の内を見透かすようだった。


わたしたちは、偶然同じ日に裏切られ、同じ店で別れを告げられた。

傷を抱えている場所が、あまりにも似ていた。

だからかもしれない。わたしは、來の言葉に、不思議と拒絶感を覚えなかった。


「俺は、君となら……信頼から始まる関係を築ける気がするんです。恋愛じゃなくても、お互いをちゃんと尊重できる関係って、あると思うんです」


沈黙のあと、彼ははっきりと、あの言葉を口にした。


「――だから、俺たち、結婚しませんか?」


それはプロポーズというより、“共生の提案”だった。

恋でも愛でもない、でも寂しさを埋め合えるかもしれない――そんな現実的な提案。


「……その提案、受けてもいいですか?」


自分の口から出た言葉に、自分でも少し驚いていた。

けれど、その時はもう、來と一緒にいたらほんの少しでも前を向ける気がしていた。


それだけで、十分だったのかもしれない。