夫の一番にはなれない



「……もう、できることが少ない気がしてきた」


來がそんなことを言うなんて思わなかった。

自分が無力だと感じるくらい、何も届いていないと思うくらい、悩んでいたんだ。


それを聞いて、私の心にも重いものが落ちてきた。


私は、あの子に何ができたんだろう。

あれほど保健室で話をしたのに。


泣いていた顔も、うつむいていた背中も、覚えている。

でも、私は、ただ「来やすい場所」でいたつもりだった。


「踏み込むことが、怖かっただけなんじゃないの……?」


ぽつりと、カップを見つめながらそう呟くと、來が静かにこちらに目を向けた。


「奈那子はさ」

「うん……?」

「……もし、今もう一度だけ、酒井さんと会えるとしたら……何を話す?」


少しだけ驚いた。

まるで、來は私の背中を押そうとしているような声音だった。


「……何を話す、か……」


カップを両手で包んで、私は少し考えた。


「やめるって決めたことを否定するようなことは……言いたくない、かな」

「うん」

「でも……本当は、ただ顔を見て、……『よくここまで頑張ったね』って、言いたい気がする」


來は黙ってうなずいていた。

それ以上、何も言わなかったけれど、その沈黙は責めるようでもなく、ただ受け止めてくれるものだった。