ふたりはテーブルについた。

今日の夕食は、筑前煮と豆腐のお味噌汁、それに秋刀魚の塩焼きという、少し肌寒くなってきた季節にぴったりの和食だった。


來が箸を動かし始めたとき、その顔にふっと安堵の色が浮かぶ。


「……うまい。やっぱ、こういうの落ち着くな」

「今日は頑張って作ったよ。來が疲れて帰ってくるかなって思って」


返事の代わりに、來は筑前煮の人参を口に運ぶ。

その姿を見ながら、奈那子はふと、以前よりも自分たちの“夕食の風景”が自然になっていることに気づいた。


氣を遣わなくても会話が続く。

黙っていても、苦じゃない。


そんな空気が、今はある。

しばらく箸を動かしていた來が、ふいに呟いた。


「……今日、久しぶりにカレーが食べたくなった」

「カレー?」

「うん。家庭訪問ってなんか疲れるじゃん?だから、昔家でよく出たカレー、ふと思い出した。母さんの味にはかなわないけど、たまに無性に食べたくなるんだよな」

「そうなんだ……じゃあ、週末つくるよ」


さらっと出たその言葉に、來が少し驚いたように奈那子を見つめた。