帰り道、校門を出て並んで歩く來に、私はふと声をかけた。
「今日の來、すごかったね」
來は横を向いて、少しだけ照れくさそうに笑った。
「お前もな。しっかり意見言ってたじゃん」
「緊張したよ……でも、あの子のためにって思ったら、言わずにはいられなかった」
「うん。……それでいいんだよな。たぶん」
そう言って、來は私の前髪をそっと指で避けてくれた。
おでこにかかった髪の毛が、風に揺れていたらしい。
それだけのしぐさが、妙に胸を温かくした。
「今日は……ちょっと、夫婦っぽかったね、私たち」
冗談交じりにそう言うと、來は驚いたように一瞬目を見開き、それから少しだけ、優しい目になった。
「まあ……たまには、な」
その言葉の“たまには”が、どこかこそばゆくて。
でも、悪くなかった。
無言のまま歩く道。
会議の緊張もほぐれ、季節の風が頬をかすめる。
いつの間にか、隣にいる彼との距離が、少しだけ近づいている気がした。
──夫婦として、職場の同僚として。
今は、どちらでもなくていい。
ただこの一歩を、大切にしたいと思えた。



