「それでは、これより二年五組・酒井明日香さんに関する進路会議を始めます」


重々しい空気の中、学年主任の中谷先生が口を開いた。


学年会に、養護教諭として私が参加するのは初めてのことだった。

会議室の長机の端、空いていた席に少し遠慮がちに座った私は、自分の存在がこの空間で意味を持つのかと、どこか不安だった。


それでも、酒井さんの件にはどうしても関わりたかった。

あの子の「退学したい」という言葉を、聞き流すことはできなかったから。


会議が始まり、担任である來が口を開いた瞬間、空気が変わったのがわかった。


「彼女は……決して『逃げたい』だけじゃないと思います」


その声は、静かだけれど、確かな熱を含んでいた。

語気を荒げることもなく、ただ淡々と、それでも強く。

彼の言葉は会議室の空気に真っすぐ届いていた。


「自分の存在が周囲の足を引っ張っているんじゃないか、って。学校にいても誰にも必要とされていないんじゃないかって、そう思っている。少なくとも、僕が最後に面会したとき、彼女はそう言いました」