「本当はさ、今すぐ会いに行ってやりたい。だけど、それで逆にプレッシャーになっても意味がないだろ」
「うん……」
「だから、ちゃんと伝えるしかない。『戻ってきてほしい』じゃなくて、『君の居場所はここにもある』って」
「來……」
その言葉を聞いた瞬間、涙がにじんだ。
ああ、この人は、生徒のことをちゃんと“ひとりの人間”として見ているんだ。
“戻ってきてほしい”は、教師の一方的な願いでしかない。
でも、“居場所がある”は、選ぶ自由を残したまま、その子の存在をまるごと肯定する言葉。
「わたし、書いてみる……手紙。たぶん、うまく書けないけど」
「それでいいよ。うまくなくていい。気持ちは、伝わる」
來の言葉が、わたしの背中を優しく押してくれた。
彼の存在が、わたしをまた“教師”に戻してくれる。
生徒と正面から向き合おうと思えたのは、來がそばにいてくれたから。
それが恋なのか、情なのか、はっきりとはわからないけれど。
この人が、わたしにとって特別な存在であることだけは、確かだった。



