「……先生として、大事な時に気づけなかったのかもしれない」
わたしの声はほとんど独り言のようで、けれどそれに応じるように、キッチンから小さな音がした。
來がカップにお湯を注ぎ、湯気をふわりと立ち上らせながら戻ってくる。
「はい、コーヒー」
言葉少なに、それだけを言って、わたしの隣に腰を下ろした。
机の上に、ふたつ並んだカップ。
この距離が、なぜかたまらなくありがたくて、でもどこかくすぐったい。
お礼を言いたいのに、口がうまく動かない。
「……ありがとう」
ようやく絞り出したその声は、湯気に紛れてどこかへ消えていくようだった。
來はそれ以上何も言わなかった。
ただ、カップを持ったまま、わたしの横にいてくれた。
言葉で慰めるでもなく、わたしの不安を否定するでもなく。
ただ、同じ時間の中に身を置いてくれている。
そんな來の存在が、胸の奥をじんわりとあたためていく。
「來は……担任として、どうしたいと思ってる?」
ふいに聞いたわたしの問いに、彼は少し間を置いてから言った。



