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酒井さんへの手紙を書こうと思い、白紙の便箋を机に広げたものの、わたしの手は一向に動かなかった。
 

どうしてこんなに書けないのだろう。

たったひと言、あなたを待っていると、そう伝えたいだけなのに。

 
言葉にしてしまうことで、その重みを真正面から受け止めることになる気がして、怖かった。


それに、わたしはあの子に何をしてあげられていたのだろうかと、自問していた。

養護教諭として、わたしは本当に酒井さんに寄り添えていたのだろうか。

 
心と体を休められる保健室で、あの子は少しは安心できていたのか。

それとも、あの優しい笑顔の裏で、わたしの言葉にずっと傷ついていたのではないか。

 
醫療的な知識や応急処置はできても、心の奥に入り込むことは簡単じゃない。

教師としての無力さが、今さらのように押し寄せてくる。


「辞めたいって……本当に、そう思ってるのかな」


便箋の横に置いていたシャープペンシルを何度もくるくると回す。
 
氣持ちばかりが急いて、文字になって出てこない。