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目を開けた瞬間、昨日までとはどこか違う感覚に包まれていた。

柔らかな朝の光がカーテンの隙間から差し込み、白いシーツにゆっくりと影を落としている。

隣を見ると、まだ眠っている來の横顔があった。


規則正しい呼吸と、少し乱れた前髪。

その姿を見ているだけで、胸の奥がじんわりとあたたかくなる。

昨夜のことが夢じゃなかったと、ようやく実感がわいた。


奈那子はそっとベッドを抜け出し、できるだけ音を立てずにキッチンへと向かった。

普段と変わらない朝。

だけど、今朝だけは、ほんの少しだけ特別に感じた。


冷蔵庫の中には、いつもの卵と牛乳。

來が昨日のうちに買ってくれていたパンもある。


「……トーストとスクランブルエッグでいいかな」


いつも通りのメニュー。

でも、それでよかった。


フライパンに油をひいて、カチリと火をつける。

ジュウ、と鳴る音が静けさを破り、ふっと現実の空間に戻された。


「……いい匂い」


後ろから聲がして、驚いて振り返ると、眠そうな顔の來がリビングに立っていた。