信じたい。
この人のことも、自分のことも。
静かな夜に、2人の呼吸が重なる。
ぎゅっと手を握り返すと、來の手も強くわたしの手を包んでくれた。
まるで「離さないよ」と言っているみたいだった。
何も言葉にはならなかったけれど、心はたしかに通じ合っていた。
終わったあと、來はそっとわたしを抱き寄せた。
その腕の中で、わたしはようやく深く息を吐いた。
「奈那子……」
名前を呼ばれただけで、涙が出そうになる。
好き、という言葉は、どちらからも出なかった。
でもそれは、今すぐに必要なものではなかった。
言葉よりも、もっと確かなものを交わした気がしていたから。
彼の胸に耳を当てながら、ゆっくりとまぶたを閉じる。
安心と疲労に包まれて、いつのまにかわたしは眠りに落ちていた。
その夜、2人の距離は、確かに変わった気がしていた。



