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來の手が、そっとわたしの指に触れた。

その動きはとても静かで、まるで触れてはいけないものにそっと触れるかのようだった。


玄関の灯りを消して、何も言わずにわたしの手を引いた彼の背中は、少しだけ頼りなく見えたけれど、その温もりは不思議と安心をくれた。


寝室に入っても、來はすぐにはわたしを見なかった。

カーテンの隙間から漏れる街の灯りが、部屋の壁に揺らいでいて、それが2人の沈黙をほんの少しだけ柔らかくしてくれていた。


音もなくシャツのボタンが外されていく音が、やけに耳に残る。

來の手が震えていることに気づいて、胸がじんわりと熱くなる。


彼もきっと、わたしと同じで、不安を抱えている。

言葉にできない感情を、こうして確かめ合おうとしている。


「……怖い?」


わたしがそう訊くと、來は少し笑った。


「怖いのは、たぶん俺じゃなくて……奈那子のほうだと思う」

「そんなこと……ないよ」


そう答えたのに、聲はひどくかすれていた。

來の指が、わたしの髪をゆっくりとかき上げる。