「來……?」


わたしがそう声をかけるよりも早く、來の顔が近づいてきた。


次の瞬間、唇が触れ合った。

驚いたわたしは身を引こうとしたけれど、來の手がそっとわたしの頬に触れて、その動きを制した。


キスは、唐突だった。

でも、強引ではなかった。


ただ、彼の想いがあふれ出すような、そんな温度のキスだった。


「……嫌だったら、今、離れて」


來がそうつぶやいたとき、わたしは首を横に振った。


「嫌じゃない」


声にならない声で、そう答えた。

來の瞳が、一瞬だけ揺れた気がした。


わたしも、もう逃げない。

怖くても、戸惑っても、この気持ちをごまかしたくない。


今、目の前にいるこの人に、心から寄り添いたいと思った。


來はもう一度、唇を重ねた。

今度のキスは、さっきよりもずっと深く、切なくて。


まるで、お互いの不安と孤独を埋めるように、ゆっくりと時間が流れていく。


キスが終わった後も、わたしたちはしばらく何も言わずに、ただ、そっと抱きしめ合っていた。