來は、ようやくわたしの目を見た。
でも、その視線はどこか不安定で、怒っているようでいて、悲しんでいるようにも見える。
「でもさ」
彼は、コップを置いて、わたしのすぐ目の前まで歩み寄った。
「なんで……あんな顔してたの?」
「え……?」
「俺じゃない誰かと会って、あんなに笑ってるの、初めて見たかもしれない」
わたしの心臓がひときわ大きな音を立てた。
來は、あのときのわたしの表情を見ていた。
「違うの。あれは、來がくれた指輪の話をしてたから……それで、自然と笑っちゃっただけで……」
「……ほんとにそれだけ?」
「本当だよ」
でも、そう言いながらも、わたしの声は震えていた。
不安と焦りと後悔が混ざって、言葉が胸に詰まってしまいそうだった。
「俺のこと、まだ“演技”で続けてるだけなんだろ……」
來の声が、わたしの耳の奥に刺さった。
まるで自分の中で膨らんでいた不安を、そのまま彼が口にしたようで、わたしは一瞬、言葉を失った。
でも、その続きを來は言わなかった。



