夫の一番にはなれない



***

玄関のドアが乱暴に開く音がして、わたしは思わずソファから立ち上がった。


「來?」


外はもうとっくに夜で、時計の針は23時を回っていた。

いつもなら「ただいま」と言う來の声がない。


代わりに、靴を乱暴に脱ぎ散らかす音がして、それに続く足音が重く響いた。


「おかえり。……飲み会、どうだった?」


キッチンの明かりをつけて、水をコップに注ぎながら、なるべく平静を装って問いかける。

來は返事もせず、そのままわたしの横を通り過ぎて、冷蔵庫の前でぴたりと立ち止まった。


扉を開ける手が少し震えていて、ようやく水を取り出すと、そのまま流しにコップを置いて、ゆっくりと水を飲み干した。

アルコールの匂いがわたしの鼻先をかすめて、思わず一歩下がる。


「あのさ」


低く落とされた聲に、わたしは反射的に顔を上げた。


「……この前、昼にあの男と会ってたよな」


一瞬、頭が真っ白になる。

あの男――望のことだ。


「たまたま、駅の前で……ほんとに偶然だったの」

「それは見りゃわかるよ」