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玄関のドアが乱暴に開く音がして、わたしは思わずソファから立ち上がった。
「來?」
外はもうとっくに夜で、時計の針は23時を回っていた。
いつもなら「ただいま」と言う來の声がない。
代わりに、靴を乱暴に脱ぎ散らかす音がして、それに続く足音が重く響いた。
「おかえり。……飲み会、どうだった?」
キッチンの明かりをつけて、水をコップに注ぎながら、なるべく平静を装って問いかける。
來は返事もせず、そのままわたしの横を通り過ぎて、冷蔵庫の前でぴたりと立ち止まった。
扉を開ける手が少し震えていて、ようやく水を取り出すと、そのまま流しにコップを置いて、ゆっくりと水を飲み干した。
アルコールの匂いがわたしの鼻先をかすめて、思わず一歩下がる。
「あのさ」
低く落とされた聲に、わたしは反射的に顔を上げた。
「……この前、昼にあの男と会ってたよな」
一瞬、頭が真っ白になる。
あの男――望のことだ。
「たまたま、駅の前で……ほんとに偶然だったの」
「それは見りゃわかるよ」



