「簡単なものでよかったら、夕飯作るけど」
「いい。弁当買ってきた。それに、テストも作らなきゃ」
「……これから?」
「うん、時間ないから」
來は教師としても、部活顧問としても全力を尽くしていた。
家でもノートパソコンとにらめっこしながら、深夜まで資料を作っている。
わたしは、そんな彼に少しでも楽をさせたくて、せめて温かい食事をと願ってきた。
けれど、その気持ちは、彼にとって「契約違反」に映るのだろう。
彼は、一度としてわたしの申し出を受け入れたことがない。
「少しは、甘えてくれてもいいのに」
形式上の妻であっても、無力な存在にはなりたくなかった。
けれど、來は掟を破らない。わたしたちの距離は、決して縮まらない。
そして、約束の一年は、もうすぐ終わりを迎える。
來はそのとき、家族や職場にどう説明するつもりなのだろう。
何もないまま、何も築かないまま、終わってしまうのだろうか。



