「選べないなら、半分ずつ食べてもいいし」

「えっ、いいの?」

「いいよ」


たわいないやり取りだけれど、まるで本物の恋人や、普通の夫婦みたいな温かい空気がそこにあった。


今しかない。


この雰囲気が壊れないうちに、話そう。

わたしの口から「これからも一緒にいたい」と。


そう思っていた矢先だった。


「あのさ、奈那子」


來の声が少しだけ低くて、真剣なトーンだった。


「なに?」


緊張のせいか、わたしの手が自然とフォークから離れる。

彼がわたしの目をまっすぐに見つめて、ゆっくりと言葉を継いだ。


「離婚、やめない?」


――一瞬、言葉の意味が理解できなかった。


わたしは彼の瞳を見返す。

ただ、それだけしかできなかった。

時間が止まったように感じる中、頭の中で「離婚をやめる」という言葉が何度も繰り返される。


「え? 今……なんて?」

「だから、離婚するの、やめないか?って」


さっきの言葉は、夢でも聞き間違いでもなかった。

來が――來のほうから、夫婦を続けようと言ってくれている。