田淵くんの母親がなぜ彼の夢に反対しているのか、少しは想像がついた。

安定した職を望む気持ちも分からないではない。


だけど、それで子どもの夢を押さえつけていいとは思えなかった。

それに、今の田淵くんの瞳は、何を言われても引き下がらないと語っているようだった。


「担任の小野寺先生には相談した?」

「……担任は、よく親と電話してるから……ちょっと相談しにくくて」


彼の声は少しだけ苦しそうで、わたしはその気持ちがよくわかった。

たとえ担任の先生がどんなに心配してくれていたとしても、家庭との橋渡し役となっているからこそ、逆に言いにくいこともある。


そういうとき、生徒は保健室に来る。

実は、田淵くんのようなケースに備えて、最近は進路相談の知識を他の先生から少しずつ教わるようにしていたところだった。

でも、美容関係となると、やっぱりわたし一人では力不足を感じる。


「それだったら、田淵くん。学年主任の中谷先生に相談してみるといいかも」

「中谷に?」

「先生ね、中谷先生」


わざと強調すると、少しバツが悪そうに視線をそらした彼が、やや声をひそめて返してきた。