次の瞬間だった。
ぐっと手首を取られ、ぐいと引き寄せられたわたしの唇に、來の唇が触れた。
驚きとともに身体が硬直する。でも、逃げられなかった。
いや、逃げようとしなかった。
それは、保健室での“未遂”とは全く違った。
今度は、しっかりと、はっきりと、わたしの意思ごと飲み込んでくるような、そんなキスだった。
唇が離れた瞬間、來の低い声が耳元で震える。
「なんで、抵抗しないんだよ、奈那子」
「……わかんない。逃げなきゃいけなかったのかな……?」
「もう一度する」
再び唇が触れ、そして今度はさらに深く重なっていった。
來の手がそっと顎を押し上げ、わたしの口元を開かせる。
次の瞬間、熱が口内に流れ込んできた。
優しさと強引さがない交ぜになった、息もできないようなキス。
まるで、來のすべてが伝わってくるようだった。
「密室で、男と2人きりってのは……こういうことにもなるって、わかった?」
言葉は少し荒くて、どこか拗ねたようだった。
でもその中に、確かな想いが滲んでいた。
わたしは膝から崩れ落ちるように、その場に座り込んだ。
心臓の音が耳に響いて、何も考えられない。
“あれも演技だったのかな”“それとも……”
わからない。でも、今ひとつだけわかるのは——
あのキスは、演技なんかじゃなかった。



