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「菊月さん、俺のワガママに付き合ってくれてありがとう」
「ううん、そんなことないよ。こちらこそ、ありがとう」
何気ない話だったのに、なぜか葛葉くんとの話は尽きなくて。
いつの間にか駅に着いてしまっていた。
「俺、今日はどうしても長く菊月さんといっしょにいたかったから。もしかしたら、迷惑かけてたんじゃないなって不安だったんだけど……」
「そんなことないよ! 私、今日は葛葉くんといっぱい話せて楽しかった!」
むしろ、私の願いをたくさん叶えてもらったよ。
「それならよかった」
ホッとしたように、葛葉くんが笑う。
「じゃあ菊月さん、気をつけて帰ってね」
「うん。葛葉くんもね」
「ありがとう」
葛葉くんは私に背を向ける。
もう葛葉くんが行ってしまう――その前に。



