「今日は、模擬授業なんてしないよ」
――葛葉くんにあっさりと拒否された。
「えっ? どうして?」
私、生徒役としてあまりよくなかったのかな?
「今日は菊月さんとふたりきりで過ごせる最後だから、菊月さんと普通に話がしたいんだけど……ダメかな?」
葛葉くんは首を傾げて、私の様子を伺う。
「だ、ダメじゃない!」
むしろ、そんな贅沢な時間を作ってくれるなんて願ってもないことだ。
「それならよかった」
安堵したようにほほ笑む葛葉くんに、また胸がドキッと音を立てた。
今日で葛葉くんとふたりきりで過ごすのは最後なのに。
葛葉くんと話していると、卒業してもまだ葛葉くんに会えるんじゃないかって錯覚してしまう。
だけど、そんな夢のような時間はあっという間に過ぎていって――。