店内には様々な人がいた。

主婦仲間がいれば会社仲間、幼い子を連れた母親、学生達など。

僕はアイスコーヒーを注文し煙草に火をつけた。

店内はほどよい涼しさで包まれていた。

きっと夏の暑さから逃れて入った喫茶店がほどよい涼しさだったので長居をしているのだろう。

十分ほどすると僕の向かい側の椅子に一人の女性が座った。

彼女もアイスコーヒーを注文した。

彼女は指に蝶々の指輪をはめていた。

「急にこんなことになったことを先ずは謝るわ」

彼女はそう言うと頭を少し下げた。

僕は二本目の煙草に火をつけた。

彼女の注文したアイスコーヒーがきた。

彼女は一口飲むと次の言葉を探していた。

「率直に言うと…来月、一週間だけ時間を作ってもらいたいの。」

一週間?

僕は驚いて彼女の顔を見た。

彼女は長い髪を肩までおろし、黒のサングラスをかけていた。

「そう、一週間」

「僕のような小さな会社は一週間営業や取引がないだけでも大きな損害をうける」

僕がそう言うと彼女は小切手を出した。

そこには3,000,000円と書かれていた。

そういう問題じゃない。

僕のような会社は信用と信頼で成り立っている。

常連のお客さんをどれだけ増やすことができるかが大事なのだ。

そもそもなぜこのような事態になったのかも知らされないままでいる。

僕は店を出て近くのパーキングに行こうとしたが僕の車はなかった。

辺りを見渡すがどこにもなかった。

お店に戻ると彼女は椅子に座ったままだった。

どういうつもりなんだ?

僕は再度椅子に座った。

「どうしても一週間だけ時間をいただけませんか?」

僕は小さな会社を経営しており一日でも休むことがあれば、その月の売り上げにひびくことなどを説明した。

「わかっています。約束を守っていただければこれ以上の対価をお出しすることもできます。決してあなたが損をしないよう対応はします」