俺は「そうか」と呟いて、視線を床に下げた。 ーーその瞬間、栗栖がニヤリと不敵な笑みをしたのを、俺は気が 付けなかったのだった。 「着きましたよ、ここが鹿森さんの病室です」 俺は、奥に奥に進んで、万桜のいる部屋のドアで立ち止まった。 プレートには、【204号室 鹿森万桜様】と書かれていて、中からは ピッ、ピッ、ピッ、と電子音がわずかに聞こえる。 看護婦と栗栖が見守る中、俺は勇気を振り絞り、思い切って扉を 開け放った。