僕はひとまず軽装に着替えた。

家を出る時、妻は「気をつけて」と言った。

タクシーを拾い一度会社に行き書類を探した。

納品した機器の品番から説明書を一式持って行った。


雑貨屋に着く頃には23時を回っていた。

お店には二人の女性スタッフがいた。

彼女たちは姉妹なのだ。

「夜遅くにごめんなさい。申し訳ないと本当に思っているわ」

彼女たちの商売は土日の集客が大事になる。

きっとよっぽどのことがあったのだろう。

姉の話を聞いてOA機器を点検した。

確かに上手く通信ができないようだった。

僕ができることは全てやってみたが、上手くいかなかった。

本体の問題であればメーカーに修理を出すことになるが…

僕はふと近くで行われている道路工事が気になった。

もしかすると建物の外の線がと思い、表に出てみると案の定だった。

偶発的なことだった。

現場の責任者に事情を説明すると申し訳なかったと言いクレーン車の位置を変えてもらった。

おそらくケーブルが接触し通信が不安定になっていたのだろう。

お店に戻ると機器は正常に動いていた。

彼女は何度もお礼を言った。

彼女は僕にいくらか支払おうとしたが契約上では料金が発生しない内容だったので断った。

「この埋め合わせは必ずさせてもらうわ」

僕は会社に戻らずそのまま家に帰った。


妻はまだリビングにいた。

時刻は2時を回っていた。

彼女はコーヒーでも淹れようかと言ったが僕はビールが飲みたかった。

ソファに深く座り込み缶ビールを飲んだ。

隣に彼女がきて僕に身を寄せた。

「あなたはモテるみたいね」

冗談じゃない、こんな夜中に呼び出されるし娘の誕生日だって帰ってこれなかったし。

僕がそう言うと彼女は首を振り、私が寂しかったのよ、あなたがいなくて。

そう言うと僕の腕に頬を寄せた。

缶ビールを机に置き僕は彼女を抱き寄せ額に口づけをした。

「君がいるから僕だっていろいろなことが上手くいくんだ」