クリプト彼氏のハロウィン企画が上がったとき、小物の買い出しを立候補したのはエイダだった。衣装の発注をする前に小物をできるだけ買いそろえて節約する。エイダはそういう細々とした作業が大好きだ。他の仕事をこなしながら一週間ほどで近所の百円ショップとディスカウントストアを回り終えたエイダの部屋に呼び出されて、DAOはうれしかった。
「ダオちゃん久しぶり。ビッチ(BCH)の誕生日以来ね。来てくれてありがと♡」
「エイダ!隣の部屋なのに全然会えないなんて驚いたよ。今日はどうしたの?新手の美容法?」

きゅうりパックやレモンパックなど、輪切り野菜を顔に貼る美容法がある。しかし今日のエイダの顔に貼られていたのはハロウィンの装飾シールだ。
「違うわよ。長時間貼っても大丈夫か、アレルギーテスト。ダオちゃんも貼る?これなんかどう?」
キスマークのシールを呈示されてドキッとする。レイブの度に、エイダからキスマークを付けられているのだ。シールじゃなくて、本物の。

「エイダ、俺を呼び出した目的は顔にシールを貼る事なの?俺の衣装ってシール貼ってたっけ?」
「あら、そうだった。ダオちゃん用の猫耳、色々買ったんだけどどれが一番安定してるか試してほしくて」
5種類ほど提示される。それからチャートの乱高下の一番激しい所を猫耳つけて踊ること、5回。
一番頑張ってたのはヘアピン固定耳で、クリップはずれやすくて、スリーピンが最弱だった。猫耳頂上決定戦が閉幕したところで気が付いた。エイダの顔に薄く塗料が塗ってある。
「ああ、これね。これは、こうして、こうするのよ」

部屋の電気を消して、ブラックライトを当てた。頭蓋骨のラインが浮かぶ。顔に描いたのだ。
いつも思うのだがエイダはなぜこんなにも頑張るのだろう。仮想通貨の頑張りと言えば、上場やマイニング方面だが、エイダは企画段階から噛んでゆく。今はビットコインも協力しているが、3人の時はエイダが一番動いていた。
ブラックライトを顔から離すとDAOは顔を寄せる。薄明りの中で唇を重ねた。
「がんばってるから、ご褒美のちゅーだよ」
レイブでいつも頬にキスをされていたので、ここぞとばかりに仕返しをした。DAOは猫耳が付いたまま上目遣いでエイダの唇を軽く舐めると、我に返ったエイダが急いで室内灯を点けた。
「仕事中に口説いてくるの、何ていうか知ってる?セクハラっていうのよ。よく覚えておきなさい」

耳まで真っ赤になったエイダが上ずった声で啖呵を切ると、DAOは追い出された。猫耳を付けたまま。
DAOはしばらく「じゃあ俺が今までされてきたのはセクハラだったのかな」などとぼんやり考えていた。