家に帰ると母親がキャリーバッグに荷物を入れていた。

どうやら明日父親が帰国するそうだ。

そのまま1週間ほど二人で旅行するとのことだった。

僕は夕飯を食べ終えると部屋に戻った。

いつものように過ごした。

今さら誰がどこに行こうが帰って来ようが驚きなどなかった。

翌朝、母親は1週間分の食費とは別にいくらかお金を置いていき家を出て行った。

誰かが階段を降りてくる音がした。

彼女だ。

そうだ、今この家にいるのは僕だけではなく彼女もいたのだ。

「おはよう。社長はもう出掛けたの?」

彼女は髪を整えながらゆっくりと話した。

出掛けたと言うと、彼女はリビングへ行き朝食を作り始めた。

君も食べるかい?

僕は彼女と二人で食事をするのに違和感があったので断った。

彼女は仕事に行く前に僕の部屋をノックした。

「今日の夜はご飯でも食べに行かない?美味しいお店を知ってるから」

彼女と距離をおいてばかりでもいけないと思った僕は行くと答えた。

彼女は微笑むと仕事へと向かった。


夜になると僕達は近くの居酒屋に行った。

彼女とまともに話をするのは初めてだった。

どうやら僕の母親の元で働いているらしく新しい部屋が見つかるまで住むそうだ。

彼女はビールを美味しそうに飲み焼き鳥を何本か注文した。

彼女は僕の五つ年上だった。

オシャレな服装に顔も可愛らしかった。

彼女は僕が母親から何も聞かされていないことに驚いていたが、よくあることだと言うと不思議そうに首を傾げていた。

彼女は僕にたくさん食べるよう促したが僕も普段からあまり食べる方ではなかった。

僕にとって彼女は年上で大人の女性の魅力もあったが、可愛らしさから愛着さえ湧いてきた。

気がつくと僕は彼女に引き込まれていた。

目が合うたびに鼓動が鳴り響いているのを感じた。