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 それからというもの、私は暇があれば、海上に行き、王子様の姿を探した。
 あれ以来、会えていないけど、物語通りだとすると、あの王子様は海に落ちて溺れてしまうはず。
 私が助けないと!

 ある嵐の夜、心配になった私は、前に王子様を見た辺りまで行ってみた。
 そこでは船が嵐に翻弄され大きく揺れていた。
 それでも、沈没するような様子ではなかったので、ほっとしたところ、ふいに犬を追いかけて甲板に王子様が出てきた。

(なにしてるのよ! バカなの?)

 会えた喜びを感じるとともに、この天候で外に出てきた無謀さに呆れる。
 雷の音にパニックになって走り回る犬を王子様が捕まえようと手を伸ばしたとき、船がぐらりと揺れて、王子様が海へ落ちた。

(もう! なにをしてるの!)

 私は慌てて泳いでいき、王子様と犬を助けた。
 
「しっかりして、王子様! 助けたのは私よ? しっかり顔を覚えておいてよね! 犬さんも私を覚えとくのよ? いいわね?」

 海に落ちたショックでぼんやりしている王子様の頬をペタペタと叩いて、言い聞かせる。
 
「君は……」

 ビックリして見つめる王子様に微笑みかける。
 王子様が落ちたのに気づいた家来たちが大騒ぎで二人を引き上げるのを確認して、私は海の中へ帰った。


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「はぁ……」
「サーナ、これで溜め息百回目。どうしたんだよ」

 王子様に恋わずらいしていた私をオーフェンが心配してくれた。
 このところ、食欲はないし、なかなか眠りにつけない。
 間近に見た王子様の顔が目に焼きついて離れないのだ。
 はぁぁと百一回目の溜め息をつく。

「ねぇ、西の魔女のこと、どう思う?」

 私は彼の問いかけに答えずに、逆に質問した。

「西の魔女? 悪いことは言わない。絶対関わるべきじゃない!」

 さっと顔色を変えて、オーフェンは即座に反対した。
 西の魔女と言えば、腕は確かなものの、偏屈でがめつく、気に食わない人を魚に変えてしまったり、多大な報酬を要求してきたりすると言う。
 
(カメが青くなるのを初めて見たわ)

 それくらい恐れられている存在だ。

「そう。そうなのよね……」

 わかってはいるけど、私は知っている。
 彼女が私を人間にできること。そうしたら、あの王子様のもとへ行けること。