「この庭園の近道を知ってるんですか?」

「俺が来た道のほうが桃が来た道よりも、たまたま近かったんだろう」

 これだけ広ければ、何本も道があるね、納得。

「私の通った道に剪定の枝があるのが、どうしてわかったんですか?」

「通る前に遠目にも見えるだろう」
「あああ、それもそうですね」

 のんびりと頷いている私の手をつないで、卯波先生が首を傾け「行こう」と歩き出す。

「近くに公園があるかも、昼食を買って行ってみるか」

「やったあ、グッドアイデア、行きたいです。そうだ、来るとき、おいしそうなパン屋さんがありましたよ」

「めざといな、そこへ寄ってから行こう」
「賛成」

「桃は、散歩と食べることに目がない。まるでサニーみたいだ」

「卯波先生のことが大好きなのも、サニーといっしょです」

 まんざらでもなさそうな顔で嬉しそう。

「散歩と食事以外、クールなところもサニーといっしょですよね」
「桃のどこがクールなんだ」

 あはっ。私に一言ひとこと切って諭すように言ったあとは、呆れたように視線を宙に浮かせて、天を仰いだ。

 私がクールだったら卯波先生は、いったいどうなっちゃうの。ロボット、機械とか。

 屋敷町を抜けて五分ほど歩いたら、緑深く青々とした木々や、色とりどりの花が咲き誇る公園が見えてきた。

「さっきの庭園みたいに広いですね」
「ああ、そうだな」

 卯波先生の手から離れて、歩きながら青空に胸を張って、伸ばせるだけ両手を伸ばした。
 あああ、気持ちいい、最高。

 昼下がりの静まり返った景色の中、ぐぐぐぐうって音が響き渡った。

「お腹は正直だ」
「お腹ぺこぺこです」

「見栄張るより頬張れか、桃は気取らず自然体だから好きだ」
「あっ、卯波先生笑った」

「大好きな花を目の前にして興奮しないのか? よほどお腹がすいているんだな。あそこの長椅子に座れ」

 淡いオレンジのつるバラが咲き誇るアーチを抜けたら、園路の先にある木製のテーブル席が見えてきた。

 歩いた歩いた、楽しかったあ。

 長椅子に座って卯波先生の顔を見たら、どうしたの? 不思議そうな顔をしちゃって。

「向かい側に座らないのか?」
「卯波先生といっしょの景色が見たいんです、それに」

 私が、ひと呼吸置くのが気にかかるのか、不思議を解明したいのか「それに?」と、身を乗り出してくる。

「それに手もつなぎたいです。あっちからだと、手が握れないです」

「うちの食いしん坊は、甘えん坊でもあるんだな、おいで」

 テーブルで横並びって、おかしいかもしれない。でも卯波先生の隣がいいんだもん。

 遅い昼食が済み、たっぷりと休憩をしてからの散策中に卯波先生が口を開いた。

「桃は、いつも俺に聞いてくるよな、どうして心がわかるのかと」
 返事のしるしに頷く。

「信じられないと思う」
 ふだんは、はっきりとした物言いの卯波先生の口が重くて、ためらっているみたい。

 不安なんてないような卯波先生でも、言いにくいことがあるって、どんな告白をしようというの?

「実は」

 いよいよ意を決したのか、それとも私が戸惑わないように気を遣っているのか、次の言葉まで間がある。