「ん?」
「道順」
「道順?」
「住所は?」
伝えたら近いって安心している。
「ラゴムは、うちから近いから一度戻って、そこから桃のマンションまで送ってもいいが、桃が疲れる」
「ここで放り出されたら、ひとりで帰れません、道がわからないから」
「そんなことするわけがないだろう」
おっ、珍しく口調に抑揚がある。手を強く握ると、ぎゅっと握り返してくれた。
「今、道がわからないからって言ったな。この場合は道が問題じゃなく、方向音痴が問題だ」
「ここまでひとりで来られるように、道順を覚えるまで何日かかるかな」
それを聞いた卯波先生が思わず、ふふんと鼻を鳴らして笑う。
「どこまでポジティブなんだ、何日では到底無理だ。ところで、この震えは寒さか?」
「わかってますでしょ」
「なんだ、言ってみろ」
「卯波先生のことが好きだからです」
「で?」
「返事が素っ気ないです、卯波先生のことが大好きなんですってば」
「だろうな」
わざと煽ってムキにさせるんだから。
今日も延々とつづける他愛ない話を、ふんふんと頷きながら聞いてくれる。
話を持っていくことも、途中で遮ることもせず、いつまでも。
クールなわりに聞き上手。話すほうは、とても気分よく話せるから、すっきり爽快。
しばらくして、マンションが見えてきた。
「あの白壁のマンションです」
「近いが、人気のない道も数ヶ所あったな。ちなみに、今、来た道は覚えられたか?」
「私は、方向音痴界のエリートですよ。方向音痴の本領発揮で無理、覚えられませんでした」
力なく首を横に振る。
「驚いた、そんなことは自慢にもならない」
今度は卯波先生が呆れた顔で、首を横に振った。
「聞くだけ野暮というもんだな、覚えられるはずもない」
「そうですよ、いまさら改まって」
「ここまで言われて、怒りさえ湧かないのか」
返事のしるしに頷く。
「愚問だった、俺が送り迎えをすれば済む話だ」
「そうですよ、最初から答えは出てましたよ」
「お調子者だな、宝城みたいだ」
出た、院長大好き卯波先生。
「あの日のことは、嘘だったんですね」
「嘘とは? あの日?」
「道順」
「道順?」
「住所は?」
伝えたら近いって安心している。
「ラゴムは、うちから近いから一度戻って、そこから桃のマンションまで送ってもいいが、桃が疲れる」
「ここで放り出されたら、ひとりで帰れません、道がわからないから」
「そんなことするわけがないだろう」
おっ、珍しく口調に抑揚がある。手を強く握ると、ぎゅっと握り返してくれた。
「今、道がわからないからって言ったな。この場合は道が問題じゃなく、方向音痴が問題だ」
「ここまでひとりで来られるように、道順を覚えるまで何日かかるかな」
それを聞いた卯波先生が思わず、ふふんと鼻を鳴らして笑う。
「どこまでポジティブなんだ、何日では到底無理だ。ところで、この震えは寒さか?」
「わかってますでしょ」
「なんだ、言ってみろ」
「卯波先生のことが好きだからです」
「で?」
「返事が素っ気ないです、卯波先生のことが大好きなんですってば」
「だろうな」
わざと煽ってムキにさせるんだから。
今日も延々とつづける他愛ない話を、ふんふんと頷きながら聞いてくれる。
話を持っていくことも、途中で遮ることもせず、いつまでも。
クールなわりに聞き上手。話すほうは、とても気分よく話せるから、すっきり爽快。
しばらくして、マンションが見えてきた。
「あの白壁のマンションです」
「近いが、人気のない道も数ヶ所あったな。ちなみに、今、来た道は覚えられたか?」
「私は、方向音痴界のエリートですよ。方向音痴の本領発揮で無理、覚えられませんでした」
力なく首を横に振る。
「驚いた、そんなことは自慢にもならない」
今度は卯波先生が呆れた顔で、首を横に振った。
「聞くだけ野暮というもんだな、覚えられるはずもない」
「そうですよ、いまさら改まって」
「ここまで言われて、怒りさえ湧かないのか」
返事のしるしに頷く。
「愚問だった、俺が送り迎えをすれば済む話だ」
「そうですよ、最初から答えは出てましたよ」
「お調子者だな、宝城みたいだ」
出た、院長大好き卯波先生。
「あの日のことは、嘘だったんですね」
「嘘とは? あの日?」


