「そのネガティブな言葉は、この業界をよく見てきてから言っても遅くはない。見たら、そんなネガティブ思考は、馬鹿ばかしいことがわかる」
「卯波先生の頭と技術なら」
「それは関係ない。そのネガティブ思考は捨てろ、いらない、考えるだけ無駄だ」
私が取り越し苦労みたいに、隣で淡々とビールを飲んでいる。
落ち着こうと、りんごジュースに口をつけた。
「きみが生半可な気持ちの持ち主なら、そもそも俺は相手に選んではいない」
ひと息ついていた二人の空気を、卯波先生が静かに変えた。
「気負いするな。きみが深刻なのは最初のうちだけだから、その点は心配はしていないが」
からかってくる院長と違って、本気の卯波先生の言葉は、ズシッとくる。ピリッともくる。
「やることをやっていればいい。俺が言うんだから、無駄なことは考えるな」
「がんばります」
「素直だからいい、素直な性格は仕事が伸びる」
褒められたから、にんまりしちゃう。
「具体的に、いつって決まってるんですか?」
「遠い未来ではなく、近い将来」
「んん?」
私の顔を見ていた卯波先生が、唇を震わせて顔を横に向けた。
きれいなEラインと、笑いをこらえる貴重な顔を見られたのは嬉しいんだけれど、なにかおかしかったかな。
「今までに見たことがない。絵に描いたような、すっとんきょうな顔だった」
近い将来の意味を教えてくれた。すぐに院長になるって言葉で締めくくって。
「今、この瞬間に新たな病気が発見されるかもしれない。発達した新たな医療技術も出てくるかもしれない」
「私も、もっと勉強します」
「大切なのは、どう取り組むかだ。医療技術は日進月歩で発展してる。その変化に適応していく必要がある。獣医師だけではなく、動物看護師もだ」
身の引き締まる思いに背筋が伸びると、卯波先生が言葉をつづける。
「ついてきてくれると思っていた、それ相当の覚悟を決めて取り組んでほしい」
「動物を助ける支える気持ち。そして、なにより動物が大好きな気持ちが大きいから、がんばれます」
「俺のこともだ」
小首を傾げて、じっと見つめてくるから、心の奥底まで読まれていそう。
瞳をそらすのを惜しんでいるの? じっと私を見つめて大きく頷く。
「さっきは本棚に話をすり替えて、はぐらかした。この状況は、どうやってはぐらかすつもりだ?」
持て余す長く逞しい腕が、私の頬をなでる。
「手に取るように気持ちがわかる。心が訴えかけてくるんだ、きみの心が」
切ない瞳で言われるそばから、私の体は震えて、訴えるってなにをって心の中で、はぐらかしてしまう。
「ネガティブ思考や駆け引きは時間の無駄だ、プライベートでも素直になれ」
わずかに傾けた端正な顔が、静かに近づいてくる。
「せ、せんせえ、嫌」
反射的に顔をそむけた。
固く結んだ唇、歪む顔に閉じる瞳。時間が止まったみたい。
静かに目を開けると、卯波先生が瞬きもしないで、私の顔をじっと見ている。
「卯波先生の頭と技術なら」
「それは関係ない。そのネガティブ思考は捨てろ、いらない、考えるだけ無駄だ」
私が取り越し苦労みたいに、隣で淡々とビールを飲んでいる。
落ち着こうと、りんごジュースに口をつけた。
「きみが生半可な気持ちの持ち主なら、そもそも俺は相手に選んではいない」
ひと息ついていた二人の空気を、卯波先生が静かに変えた。
「気負いするな。きみが深刻なのは最初のうちだけだから、その点は心配はしていないが」
からかってくる院長と違って、本気の卯波先生の言葉は、ズシッとくる。ピリッともくる。
「やることをやっていればいい。俺が言うんだから、無駄なことは考えるな」
「がんばります」
「素直だからいい、素直な性格は仕事が伸びる」
褒められたから、にんまりしちゃう。
「具体的に、いつって決まってるんですか?」
「遠い未来ではなく、近い将来」
「んん?」
私の顔を見ていた卯波先生が、唇を震わせて顔を横に向けた。
きれいなEラインと、笑いをこらえる貴重な顔を見られたのは嬉しいんだけれど、なにかおかしかったかな。
「今までに見たことがない。絵に描いたような、すっとんきょうな顔だった」
近い将来の意味を教えてくれた。すぐに院長になるって言葉で締めくくって。
「今、この瞬間に新たな病気が発見されるかもしれない。発達した新たな医療技術も出てくるかもしれない」
「私も、もっと勉強します」
「大切なのは、どう取り組むかだ。医療技術は日進月歩で発展してる。その変化に適応していく必要がある。獣医師だけではなく、動物看護師もだ」
身の引き締まる思いに背筋が伸びると、卯波先生が言葉をつづける。
「ついてきてくれると思っていた、それ相当の覚悟を決めて取り組んでほしい」
「動物を助ける支える気持ち。そして、なにより動物が大好きな気持ちが大きいから、がんばれます」
「俺のこともだ」
小首を傾げて、じっと見つめてくるから、心の奥底まで読まれていそう。
瞳をそらすのを惜しんでいるの? じっと私を見つめて大きく頷く。
「さっきは本棚に話をすり替えて、はぐらかした。この状況は、どうやってはぐらかすつもりだ?」
持て余す長く逞しい腕が、私の頬をなでる。
「手に取るように気持ちがわかる。心が訴えかけてくるんだ、きみの心が」
切ない瞳で言われるそばから、私の体は震えて、訴えるってなにをって心の中で、はぐらかしてしまう。
「ネガティブ思考や駆け引きは時間の無駄だ、プライベートでも素直になれ」
わずかに傾けた端正な顔が、静かに近づいてくる。
「せ、せんせえ、嫌」
反射的に顔をそむけた。
固く結んだ唇、歪む顔に閉じる瞳。時間が止まったみたい。
静かに目を開けると、卯波先生が瞬きもしないで、私の顔をじっと見ている。


