策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

「それは熱いから火傷に気をつけろ」
 お兄ちゃんというより親みたい。

「ペアのお箸です」
 手を伸ばして、向かい側に座る卯波先生の箸に自分の箸をくっつけて微笑んだ。

「ああ」
 淡々とした返事で目も合わせない。

「隠しきれない嬉しいって顔してますよ」
「冷めるから食べろ」
「今さっきは、熱いから気をつけろって言ったのに」

「ペアの箸、嬉しいか?」
 俯いて食べながら、淡々と聞いてくる。

「嬉しいです、とっても。あの、えっと......初めてだから」

「初めてなら、どの男でもよかったのか?」
「それは違います!!」
「だろうな」

 なんて自信家なの。悠々と優雅に料理を口に運び、何事もないような顔をして。

「けっこう話すんですね、ラゴムだとクールで口数少ない」
 抑揚なく淡々とした口調は、ほぼ変わりないけれど。

「言われてみれば、宝城といるときのように居心地がよくて口数が多くなっている」

「卯波先生って、本当に院長のことが好きなんですね。宝城、宝城って」

 小さな笑い声を上げながら顔を見ると、引きつったような顔で少し口元が緩んだ。嬉しそう。

 温かな空間の中で和やかな夕食が済み、後片付けをお手伝いした。

「時間は大丈夫か?」

 そんなことを聞かれて、このあとどうなるの? なんて考えて、ひとりで恥ずかしくなって顔が火照って馬鹿みたい。

「どうした?」
「いえ、なんでも」
「泊まれなんて言わない、今夜は」
「な、なっ」
 なに言っているの?

 もしかして、また私の心がわかったの?

「早とちり、落ち着け、慌て者。ソファーに座ってろ」
 うわあ、穴があったら入りたい。

 全身が火照って、脳がどっくんどっくん脈打つ。今ので喉が、からっからに乾いた。

「りんごジュース」
「どうして喉が乾いちゃったのと好きなのが、わかるんですか?」
 驚いた私は、卯波先生を舐めるように見上げた。

 ソファーに座る私が跳ね上がらないように、卯波先生が気遣って、静かにソファーに座ってくれる。

「感じる、それが浮かんだ」
 りんごジュースだって顎で合図する。

「卯波先生だけビール」
「まだ早い」
「私、二十歳になりました」
「きみには苦いだけだ」
 そう言って、おいしそうに喉を鳴らしながら飲んでいる。

「物欲しげな顔をして、ほら」
 卯波先生が差し出すグラスに、そっと口をつけてみたら、初めての苦みが舌にしみる。

 我慢して、ひとつ二つと咳払いしたのに反射的にむせた。

「まだ、きみは子どもの舌だ、ジュースでいい。ゆっくり、おとなになればいい」

 頭を優しくなでられたら、また震えてしまって、なにがなんだか頭の中が真っ白。