策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

「お世辞でも嬉しいな」
「きみがラゴムにきてから、やけに男性オーナーが増えた」
「気のせいですよ」

「顧客のデータは、はっきりと数字に表れる。きみを目当てに、来院する男性オーナーが増加した」

「本当に?」
「なわけがないだろう」
「もう」

 思わず吹き出したら、卯波先生の頬が微かに緩んだ。卯波先生流のジョークなのかな。

「さっき教えただろう、もう忘れたのか? 人は数字を出されると騙される」

「もう卯波先生の数字は信じません」

「過去に、それを言った八十二パーセントの人間が、また俺に騙された」

「本当に?」
「ほらな」
「もう!」
 また騙された!

「気をつけろ」
「もうなにも言いません」
「過去に、そう言っていた」
 卯波先生の声にかぶせて、話を全力で止めた。

「もう騙されませんから!」
「少しは学習能力が高まってきたようだ」

 フライパンを器用にしゃかしゃか振って、食材を天に浮かせて、くるくる回し始める。

 なんでもできちゃうんだ、凄く上手。

「ねえ、卯波先生」

 卯波先生に回されながら跳ね上がる食材の向こうから「なに?」って答える顔は、熱気で少し火照っていて、いつにも増してきれいな肌。

「卯波先生を目当てで来院するオーナーたち、いますよ、いますでしょ?」
「そういうことにしておこう」

「はぐらかしてもダメですよ。しょっちゅうオーナーたちからアプローチされて、断るのが大変ですよね」

「わかりやすい焼きもちだな」
 ふつうに誘導尋問を仕掛けてくるから、油断できない。

「卯波先生の性格は、どちらに似たんですか?」
「はぐらかしたな」

 卯波先生が、冷蔵庫に手をかけて呟いたときに向けてきた背中は、広くて大きくて頼りがいがある。

 ため息が漏れる逞しさ。
 
「性格は、きっと隔世遺伝だろう。両親はにぎやかで宝城ときみみたいだ。二人を見ていると両親と重なる」

「絶対、隔世遺伝ですね。院長と性格が真逆ですもん」

「だから宝城と気が合うんだ。家族といるようで安らいで落ち着く。たまに騒々しいが」
 そう言いながらも笑顔は嬉しそう。

「最初に笑わせたかったのに。院長の話で笑顔になりましたね、初めて見た笑顔」

「そんなに、じろじろ見るな、これからずっと見られる。ほらもう料理が出揃う」

 さりげなく言ったね、『これからもずっと』って。喜んでもいいの? 喜んじゃうから。

「さっきから、音や香りに刺激されて、お腹がぺこぺこです」

 次々に並べられた料理で、あっという間にテーブルが華やかに彩られた。