策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

「叱りますか?」
「叱られたいのか」
 手を動かしながら、ちらりと顔を見てきて、また視線を移して料理をしている。

「来い」
「叱ります?」
「叱らない」
「本当に?」
「本当だ」
 器用な手さばきで、たまに私に視線をちらりと送ってくる。

「嬉しそうに寄って来て、まったく現金な奴だ。食卓に箸を」
 ペアの箸を手渡された。

「ペア。院長とですか?」
「今、ここに宝城がいるか? や、いたとしても」
 私の言葉に、卯波先生にしては可愛い高い音が鼻から漏れた。

「どうして宝城となんだ。さっきから、俺と宝城をどんな目で見ているんだ」
 独り言みたい、なにかぼそぼそ呟いている。

「近い将来、こうなるからペアの箸を揃えておいた」
 近い将来を予言していたわけじゃないみたい。
 言い方が予言というより、わかっているって感じ。

「ペアのお箸って。卯波先生って、意外と可愛いんですね」
「きみの望みを叶えている、それだけだ」

 素っ気ない口調の端々に、なんとなく照れくささが見え隠れしている気がする。意外で驚いた。

「冷蔵庫にジュースが入っている」

「ありがとうございます。せっかくですが、食事中にジュースは飲んだらいけないって、両親に躾られたので、未だに食事中にジュースは飲みません」

「躾のしっかりした親御さんだ」

 作業は機敏なのに、優雅で流れるよう。

 治療中のような手さばきに、思わず目を奪われる。料理人もできそう。

 返事がないのが疑問に思ったの? 頭を上げた顔に、さざ波のような影が走る。
 ちょっとどころか最上級の美しさ。

 手を動かしながら、答えを待つような顔をしたかと思えば、またすぐに俯いた。

「両親のことが大好きで、家族みんな仲良しです」
「あたたかいご家庭だ」
「とっても。卯波先生のご家庭も?」
「おかげさまで」

 ふだんから作り慣れているって感じで、話しながら、手は動かして無駄な動きがない。

「卯波先生は、どちらに似たんですか?」
「顔は母親、背格好は父親」
「ということは、お母様とても美人ですね」
「若いころはミスなんとかって、何個か名前を挙げていた」

「お母様、凄い。ご両親から、いいところを上手にいただきましたね」

「きみは、なんとかって美少女女優にそっくりだそうで、可愛いとオーナー方から評判だ」

 そういうのに疎い卯波先生らしいな。なんとかって誰よ?