策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

「オーナーは、家族にも誰にも甘えられないのだろう。宝城にしか、弱みを見せられないし甘えられない。それを宝城は理解している」

「だから、オーナーは激しく自分を出して、院長にぶつけていらっしゃるんですか?」

「オーナーは宝城の前でしか泣けないから、宝城は泣かせてあげている。宝城は受け止められる器の大きな男だ」

「院長とオーナーが、お互いに信頼し合ってるから大丈夫ってことですね?」

「そうだ、だから心配はいらない。納得したか?」
「よくわかりました、ありがとうございます」
「早く食器を下げて、つづきに取りかかれ」
「はい!」
 
 理由を聞いてすっきりした。それなら、卯波先生も止めに行かないよね。

 乾燥機から洗濯物を出して来て、たたんでいるころになって、院長が入院室に入って来た。

「お疲れ」

 診察台をデスク代わりに、カルテを見ている卯波先生の声に、頷いた院長が診察台の目の前の椅子に深く座った。

「お疲れさん」
 少し疲れたのかな。院長の爽やかな声が、いつもより低いから心配、疲れたよね。

 デリケートな問題のあとは、オーナーが帰ったあとに、いつもこうして院長が卯波先生のそばにやって来る。

 卯波先生は聞き役に徹して、院長の心の内を吐かせて楽にしてあげる。

 こういう光景を目の当たりにすると、仕事上のバディでもあるけれど、男同士の友情っていいなって心から思う。

 ふだんは、お互いドライに淡々としているのにね。

 でも、なにかにつけて卯波卯波、宝城宝城って言ってるもんね。本当に心から大好きなんだね。

 オーナーの取り乱し方が凄かったな。追い詰められたら冷静ではいられないよね。

 私がオーナーと、おなじ立場だったとしても迷ってしまう。わが子のように愛する子の大切な命だから。

 数日かけて、院長や卯波先生と何度も繰り返して、お互いに意思の疎通を図ってきたから、オーナーも頭の中では理解しているはず。

 でも心は、おいそれと承知できないよね。

 前に卯波先生が『希望のあるところには必ず試練がある』って教えてくれた。

 その言葉を表すみたいに、レクの病状は一進一退を繰り返しては好転しないまま、オーナーが取り乱した日から三日が経過した。

 スタッフステーションでは、今後のレクの苦痛緩和処置について、院長と卯波先生が話し合っていた。

「レクには、すべての選択肢からやれる限りの処置を充分に施した」

 治る見込みのないレクを、なるべく苦痛から解放してあげるために力を尽くしてきたから、今の卯波先生の言葉には納得。

「これ以上の治療は、ただレクを苦しめるだけだ。この苦痛からレクを解放してあげたほうがいい」